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闘うコラム大全集
- 2026.11.05
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頼総統も同意、現状維持は日台の国益
『週刊新潮』 2026年10月29日・11月5日合併号
日本ルネッサンス 第1215回
10月10日から私はシンクタンク「国家基本問題研究所」の一行と台北を訪れ、国基研と「インド太平洋戦略シンクタンク」が合同で開催した、「日台科学技術未来フォーラム」に参加した。12日には頼清徳総統との会談の機会も得た。
会談で頼総統は台米関係は非常によいと明確に言い切った。日本をはじめ国際社会にはトランプ大統領の台湾政策への疑念は深い。トランプ政権中枢に近い米国人は「トランプ氏の言葉よりも行動を見てほしい」と言うのが常だが、氏の発言には台湾軽視の懸念がついて回る。だが、頼氏は実際の米国の行動を基準に、落ち着いた見方を示した。
9月25日、ワシントンでの米中首脳会談では、習近平国家主席がトランプ氏に対し、台湾問題に構わないように、台湾への武器装備の輸出は思いとどまるよう、言葉を尽くし、時間を割いて要求した。しかし、同会談からわずか1週間後の10月2日、米国はF16V戦闘機2機を台湾に納入し、習氏の要求を砕いてみせた。納期は遅れがちだが米国は計66機を台湾に納めることになっている。
織田邦男元空将はF16Vは台湾仕様で燃料搭載能力が格段に拡大されていると指摘する。
「来襲する中国機を待ち伏せする台湾軍が長時間飛べるように、燃料タンクを拡大しているのです。実物を見て、その容量に驚きました」
今年台湾に100発納入され、配備済みと報道された対レーダーミサイルHARM(High-speed Anti-Radiation Missile)にも触れておく。織田氏の解説だ。
「中国軍の巡洋艦や駆逐艦が台湾制圧に向かう時、最も重要なのが台湾軍の動向を探るレーダーです。しかし、中国側がレーダーを使用した途端に、HARMはその電波を逆探知して確実につぶすという能力を有しているのです。HARMを投入されたら最後、中国軍はレーダーを止め、盲目状態で戦わざるを得なくなります。HARMの台湾配備は中国にとって大変な脅威です」
その他にも米国から台湾に納入、配備が進行中の武器装備は少なくない。台米関係は非常に良好と明言した頼氏の信頼は米国の行動によって支えられている。
習氏の歯ぎしり
9月22日、ニューヨークでの国連総会に合わせて行なわれた茂木敏充、マルコ・ルビオ、趙顕の3氏による日米韓外相会談も台湾を大いに鼓舞していることだろう。3か国の外相は共同声明で、台湾海峡の平和と安定の維持、両岸問題の平和的解決、一方的な現状変更の試みに反対という従来の政策を確認したのみならず、「適切な国際機関への台湾の意味ある参加を支持する」と、踏み込んだ。
中国が国際社会における台湾の活動の場を狭め続ける中で、新たに国際機関に招き入れることは、台湾を「中国の一部」として見るのではなく、事実上独立状態にある存在として、支持することだ。高市早苗首相の、台湾の現状維持を守るというぶれない基本戦略が、米韓両国のそれと合致しているのである。この日米韓の政治的決意表明ほど、頼氏を勇気づけるものはないだろう。
外相3人が台湾の現状維持のみならず、台湾をより幅広く国際社会に組み込むために連携することを、共同声明という形をとって鮮やかに世界に宣言した。習氏の歯ぎしりが聞こえてくるようだ。
頼氏は安倍晋三総理についての想いも語った。
「安倍元首相はトランプ氏に『自由で開かれたインド太平洋』の概念を伝え、支持を得た。それがインド太平洋の安定に繋がった。安倍元首相に心より感謝している」
そして高市氏がトランプ氏と良好な関係を築いていることにも謝意を表明し、日米の安保協力及び日台関係のさらなる深化を望んでいると語った。その言葉の背景には、良好な日米関係がいかに台湾にとって重要かということとともに、実は日本にはもっと多くの実質的な協力をしてほしいという思いもあるに違いない。
国基研での研究の一環として、岩田清文副理事長が中心となって日米にとっての台湾の戦略的価値を分析した。結論は台湾の現状維持こそ日本の国益だという点に尽きる。
台湾を守ることはわが国を守ることと同義なのだ。日台は紛れもなく運命共同体である。そこまで分かっていて、日本は具体的に台湾を守るために何をしているだろうか。厳しく自問すべきだ。米台間には軍事的なものも含めて様々な交流があるが、日台間にはそれがない。
台湾の現状維持が日本の国益だという岩田報告に触れて頼氏はざっと以下のように語った。
「台湾の現状維持は日本の国益だという主張に、私も賛同している。中国の最終目的は台湾統一だけではない。共産党率いる彼らが国際社会のリーダーとなり、国際秩序を変えることだ。台湾が中国に飲み込まれれば、日本、インド太平洋諸国にも中国は次々と手を出していく」
「非紅」のサプライチェーン
そして頼氏はこう続けた。
「可能であれば、台日で防衛研究開発・製造の分野で協力し、力を向上させていかなければならない」
右の言葉を、わが国は官民共に真摯に受けとめるべきだ。なぜなら中国共産党の脅威は本当にわが国と台湾に迫っているからだ。中国が長年、台湾有事に向けて演習を繰り返しているのは周知のとおりだ。彼らはいつでも実戦に踏み切れる水準に近づいている。日米台のあらゆる面での協力で対応するしかない。頼氏が訴えているのはそういうことだろう。
安全保障も社会の安定も経済基盤が強固でなければ実現しない。頼氏は日米台韓などの民主主義国が手を携え「非紅」(脱中国)のサプライチェーンを構築することが中国の侵略力を弱めるとして、台湾の成功例について語った。
「2010年には対中貿易は全体の50%でしたが昨年は20%台にまで減少しました。10年の台湾企業の年間対外直接投資総額に占める中国向け投資は83.8%を占めていましたが、昨年は3.7%まで減少しました」
対中投資を驚くほど減らした台湾経済が、これまた驚くほど成長しているのだ。頼氏は台湾の実績を日本をはじめ国際社会でも参考にしてほしい、中国と連携すると経済が成長すると思い込んでいる国々に知らせたいと語った。未だに中国貿易に希望を託し、対中投資を続けるわが国の経済界の重鎮たちにこそ、頼氏の言葉を聞かせたい。最後に頼氏はこう語った。
「台湾は中国の威圧に対して揺るぎない姿勢を保つ決意だ。台湾は自国を自分たちの力で守り、この重責を日米に押し付けることはしない。同志国の人々と協力し、権威主義国に毅然とした態度で臨んでいく」
見事ではないか。頼総統にお会いしたのは7年振りだった。以前よりさらに穏やかな落ち着いた佇まいで、2300万の国民のために自力で台湾を守る、という気概を示した。この心意気をわが国こそ共有しなければならない。
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