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闘うコラム大全集
- 2026.09.10
- 一般公開
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台湾有事は紛れもなく日本有事だ
『週刊新潮』 2026年9月10日号
日本ルネッサンス 第1209回
「台湾有事は日本有事、日米同盟有事だ」
安倍晋三総理の右の言葉を今こそ私たちは噛みしめなければならない。急速に変化する国際情勢の中で、私たちは台湾有事がいつ起きるかを問うべきで、その時期は遠くないととらえておくのが正しいだろう。
台湾問題を考える時、後述するように、私たちの日本国が鍵を握っている事実を心しておかなければならない。安倍総理の至言どおり、台湾有事は日米の有事であり、共に戦わなければ両国の未来は暗いということなのだ。
「国家基本問題研究所」副理事長の岩田清文氏が、台湾が現状維持しきれずに中国に支配される時、どんな影響が生じ得るかを分析した。結果としてわが国に台湾有事に関わらないでやり過ごすという選択肢はないこと、反対に全力で台湾の現状維持に力を尽くさなければ経済的、文化的大困難に直面するという厳しい事実を再認識した。
私たちの前に立ち塞がっているのは、中国共産党の歴史に対する恨みである。1840年のアヘン戦争以来、彼らは「全てが奪われた」と主張する。奪われた誇り、支配権、領土など全てを取り戻すことを目標として今日に至る。
習近平国家主席の「中華民族の偉大な復興」の意味は、欧米列強の構築した近代の国際秩序における従属的な地位から完全に脱し、本来中華文明が占めるべき地球上の中心的地位と勢力圏を回復するということだ。それは単なる経済的・軍事的な大国化にとどまらず、中華民族こそが世界を主導する正統性を持つ優れた存在だという物語なのである。
台湾は1895年の下関条約で琉球と共に日本に奪われた領土なのであり、それを取り戻し統一して初めて「中華民族の偉大な復興」をなし遂げられる。それをなし遂げてこそ共産党の歴史的正統性が証明されると、習氏は考える。
「即座の大恐慌」
習氏は鄧小平以降の経済発展重視よりも、国家の安全を優先事項に置いた。経済、軍事双方における成長で自信を得た習氏は、“十分に力をつけるまでは決して米国に真の実力を見せてはならず、弱いふりをしろ”という鄧氏の教え、「韜光養晦(とうこうようかい)」の精神をかなぐり捨て、米国と並ぶ大国へと公然と歩み始めた。氏はまずオバマ大統領に「広大な太平洋には中国と米国という二つの大国を受け入れるに十分な空間がある」として、世界は偉大なる二大国が支配すべきだ、米中両国は対等だと仄めかした。
トランプ大統領に対しても同一の表現で語りかけ、次にバイデン大統領に対しては「地球は中米両国が成功するのに十分な大きさがある」と語りかけた。「太平洋」から「地球」へと対象が広がったのは、米国のアジア太平洋への関与が後退すれば、中国の求める勢力圏そのものが拡大するという意味だ。
これは西太平洋、少なくとも第二列島線の西側を中国の勢力圏として既成事実化しようとする意図に他ならない。彼らの唱える「第一列島線」の要に位置する台湾を確保することは、「勢力圏としての西太平洋」を確保する中国の夢を、名実ともに具体化する決定打なのだ。
中国が台湾を掌握すれば何が起きるか。TSMCを中心とする世界最先端の半導体製造能力を中国が手中に収める。台湾には先端ロジック半導体を歩留まりよく量産できるマザー工場としての基幹拠点・TSMCに加え、設計から製造・後工程(パッケージ・検査)に至るまでの半導体産業全体が集積している。
台湾を手に入れることで、中国は先端チップで数世代分の技術的遅れを抱えている半導体自給戦略の足らざる点を、一挙に補えるのだ。これまでの数十年間、知的財産の窃盗をはじめあらゆる手段を用いて埋めようとしてきた対米技術ギャップを、一度の政治的行動で埋められるのが台湾支配を完結することなのだ。
台湾が中国に降ることで日本の半導体輸入の46.7%を占める台湾由来の供給が不安定化する。日米などが台湾製半導体へのアクセスを失うのである。その場合、世界経済は「半年でGDPが8%減少する。成長は5~10%押し下げられる」と米ヘッジファンド・シタデルCEOのケネス・グリフィン氏は指摘する。これは「即座の大恐慌」に等しいとも、氏は強調する。
過去の数字と較べればその凄まじさが見えてくる。2007~09年のリーマン・ショックにおける最悪の年(09年)、GDPの下落率は約2.6%、20年のコロナ禍でも約2.2%だ。台湾製半導体の喪失によって想定される5~10%という単年度の下落幅は、リーマン・ショックやコロナ禍の3~4倍に達し、1930年代の世界恐慌や敗戦直後の動員解除期に匹敵するのである。
わが国が香港のように…
経済的損失だけではない。わが国も世界も習氏の唱える「人類運命共同体」の悪夢に晒されることになる。習氏は「人類運命共同体」の説明にざくろの実を比喩として使っている。ざくろの実を包み込んでいる固い皮は中国共産党の教えである。皮の中には数多の実がびっしりと並んでいる。それらの一粒一粒が世界中の民族や国家を表しており、全てが中国共産党の価値観に染められて生きるという考えを象徴しているのである。そのような世界こそが習氏の考える中国の夢なのであろう。
古来、わが国と中国は価値観において、政体において、自国民をどう遇するかにおいて、決定的に異なる。また異なる文化に敬意を払うのはわが国であって中国ではない。わが国は中国に敬意を払ってきたが、中国はどうか。
中国は江沢民政権以降、烈しい反日教育を国民に施してきた。結果、40代より若い人々に反日思想はとりわけ強い。そのような中国が台湾を制し、支配を広げ、わが国をも影響下に置こうとするのは日本にとって最大の受難である。
実際に中国が台湾に手を出せばどうなるか。米シンクタンクCSISが行なったウォーゲーム(23年)では、24通りのシナリオのうち米国が22通りで勝利した。他方、中国が勝利した2通りとは⓵米国が介入しない場合、⓶米国は介入するが日本が中立の立場をとり米軍基地の使用を認めない場合だった。日本が関与しないこと自体が台湾陥落の決定的な変数になり得る。台湾の現状維持には、わが国が米国と共に戦わなくてはならないということなのだ。
台湾有事はまさに日本有事であり、日米同盟の有事である。台湾を守ることは日本を守ることだ。それはどんなに欠点があろうとも、米国の奉じる自由と民主主義を守ることにつながる。台湾の危機を傍観することは、中長期的に見れば、わが国がやがて香港のように中国の圧政下で沈黙させられてしまう暗い未来を招くことになる。日本がきちんと戦う意志を示し、その力を構築することが台湾の現状維持の鍵である。
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