2026.09.26
【櫻LIVE】第727回:山上信吾・外交評論家・元オーストラリア大使/小原凡司・笹川平和財団上席フェローとの対談動画を公開しました
闘うコラム大全集
- 2026.10.01
- 一般公開
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古謝氏勝利は日本の戦略的目覚めだ
『週刊新潮』 2026年9月24日・10月1日合併号
日本ルネッサンス 第1211回
沖縄県知事選挙で、自民、維新などが推薦した古謝玄太氏(42歳)が左翼陣営の共産、社民など、オール沖縄の支持した玉城デニー氏(66歳)に完勝した。今年2月の衆院選では同県の小選挙区の議席全てを自民党が獲得した。今、史上初めて沖縄県で知事も含めて自民党が政治の主導権を握った。
迫り来る台湾有事を考えれば、古謝氏の勝利は日米台3か国にとって非常に重要な意味を持つ。台湾の現状維持に向けた現実的な安全保障政策推進の土台ができたのだ。
他方、玉城氏の敗北は戦略的要衝である沖縄でリベラル勢力が後退し、中国にとっては最も警戒する状況が生じたことになる。即ちわが国の目覚めである。
戦後長きにわたって浸ってきた怠惰な眠りから覚め、いま本気で対策を講じなければ運命は暗転するということを、一般の有権者が察知し始めた。即ち、中国、ロシア、北朝鮮の戦略、戦術の本質をわが国国民が理解し始めたのだ。そのことが中国に対する本質的な挑戦になると、彼らは鋭敏に感じとっている。だから習近平国家主席は高市早苗首相の政策、言動を悉(ことごと)く非難するのである。
対照的なのが米国であろう。トランプ大統領の中露北朝鮮、とりわけ中露に対する外交姿勢は、同氏が両国の、というより習氏及びプーチン大統領の目指す長期戦略の本質をとらえ得ていないことを示している。
9月5日、トランプ氏の特使として、スティーブ・ウィトコフ氏とジャレッド・クシュナー氏が揃ってモスクワを訪問した。両氏のモスクワ行きは各々、7度目と3度目である。
不動産業で巨万の富を築いたウィトコフ氏はトランプ氏の親友である。クシュナー氏はトランプ氏の娘婿でこれまた大富豪だ。シンクタンク「国際戦略研究所」(IISS)は、トランプ氏が最も信頼する両氏がウクライナ侵略戦争終結に向けて基盤とする視点と、プーチン氏のそれが全く異なると指摘している。
米国が軽視されている
クシュナー氏らは停戦後の利益を強調して止まない。希少金属資源の確保からAIデータセンターの建設まで、露ウ両国のみならず米国がそれらの計画に加われば想像を絶する富が生まれるとの発想だ。眼前に広がる無限ともいえる富を手にすることは、戦場での一進一退の殺し合いや破壊よりもはるかによいはずだと説くのだ。
他方、プーチン氏の欲するものは停戦によって得られる富の次元を超えている。即ち、大帝国ロシアの復活である。氏は単にウクライナ東部のいくつかの州をロシア領に組みこむことを目指しているのではなく、全土を自国領にしてしまうことを目論んでいる。
ロシア、ベラルーシ、ウクライナは元々同じ民族だったという奇妙な歴史観に取り憑かれているプーチン氏は、ソビエト連邦崩壊こそがロシア民族の悲劇だと確信している。従って、自身の目指すべき最終ゴール、歴史に対する使命は、ウクライナの完全ロシア化だと信じているのだ。
ウクライナはプーチン氏の狙いや考え方を十分に理解している。だから彼らは言う。「ロシアが戦いをやめれば戦争は終わる。我々ウクライナがやめれば、わが国が終わる」と。
この根本的な思想の違いに、米国は気づいていない。トランプ氏の思考はそのはるか前で停止しているのではないか。トランプ氏は首脳同士、2人の関係の中で、問題解決ができると信じている。
また、自身が最も重視している個人的レベルの富の獲得を軸に交渉を進められると考えている。相手が富以上の国家権威や誇りを存念としていることに気づかない。そもそも不動産取引と国家の命運を賭けた外交、安保上の取り引きは全く異なることを理解できない。
そのようなトランプ氏の足下をプーチン氏は見ている。プーチン氏の手法から、私たちはどれ程米国が軽視されているかに否応なく気づかされるのだ。ウィトコフ、クシュナー両氏がモスクワに到着すると、待っていたのはキリル・ドミトリエフ露大統領特使による「大袈裟であたたかいもてなし」だった。プーチン氏は長時間姿を見せず、クシュナー氏らはドミトリエフ氏と長いランチを共にしなければならなかったのだ。
プーチン氏はウクライナ軍の縮小も含めてウ戦争での要求を少しも緩めない。加えてプーチン氏は9月1日、イランのペゼシュキアン大統領と会談し、米国と戦うイランへの支援の継続を確約した。これまでプーチン氏が中国と共にイランを支えてきたのは周知の事実だ。しかし今や、堂々とそれを発表するのである。トランプ氏は自らへの評価が大きく変化していることに気づかないのか。
高市氏の役割
9月下旬に米国で米中首脳会談が行なわれる。トランプ氏と習近平氏は5月、北京で「建設的戦略安定関係」を目指すことで一致した。米国はイラン戦争で戦力を消耗し、中国は経済大不振に見舞われている。その点で両国とも現在、互いに対立を鮮明にすることはできないし、戦略的に安定を維持することは両国にとって得策だ。しかし、この「建設的戦略安定関係」は中国の伝統的戦略に基づくものだと理解しなければならない。中国はどの時代も時間を戦略的に活用してきた。
中国の時間軸は私たちの側のそれよりはるかに長い。独裁専制主義国家には、国民への説明責任も、国民の意思反映の責任も、私たちの側が直面する選挙の怖さも、なきに等しい。
中国共産党政権は今回も、米国に独自の罠を仕掛けるだろう。幾十幾百もの企業団を率いて訪米し、トランプ氏の喜ぶディールを持ちかけ、氏を籠絡すると考えるのが正しい。トランプ氏は11月3日の中間選挙を前にして戦略なき妥協に走る危険性がある。その結果、わが国が常に恐れてきた米中接近が進む可能性もある。
上下院議会、国防総省、研究機関などの全てが中国への強い警戒心を抱いていることに変わりはないが、米国の大統領権限は大きい。また、米国の経済界は、わが国同様、ともすれば企業利益を国益に優先させかねない傾向もある。
わが国にとって深刻なこの局面で、高市氏の役割が歴史的意味を帯びる。大袈裟でなく、わが国も世界も人類史の分岐点に立っている。自由と法を守る人類社会にとどまるのか。そこを去って「国際法」と言いながら中露による力の支配が全てになる人類社会に移行するのか。その分岐点である。
無論、私たちは法の支配する国際社会で、人間の自由を守り続けなければならない。その第一歩が台湾の現状維持であり、わが国はそこにあらゆる知恵と努力を傾注しなくてはならない。同様にロシアに対峙するウクライナに目に見える形で支援を実施することだ。ウクライナが死活的に必要とする防空能力を供給する手立てを、叡智を絞って考えよ。その姿勢が生み出す政治的インパクトこそ、烈しい風を巻き起こしながらも、中長期的にわが国の国益となるはずだ。
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