闘うコラム大全集

  • 2026.10.08
  • 一般公開
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米中会談から日本が学ぶべきこと

『週刊新潮』 2026年10月8日号

日本ルネッサンス 第1212回


9月23日から中国の習近平国家主席が米国を訪問し、首脳会談が行なわれた。5月の北京での会談同様、共同会見も共同声明もなく、その内容の乏しさに、首脳会談が実現したこと自体が成果だったと評された。


北京での会談で、中国側は米中の目指すべきは「建設的戦略安定関係」の構築だとした。今回も習氏は滞在最終日の茶会で、建設的戦略安定関係は「尊重、公平、対等」の精神で推進されると述べ、トランプ大統領もそれに合意したと語っている。誰も明確に定義していない曖昧な9文字の標語を、今回さらに「尊重、公平、対等」の精神で守っていくと合意したというのだ。


習氏の最終目標は中国が地球社会の頂点に立つことだ。そこへの一里塚が米国と対等になることで、米中対等を世界に示したい氏の執念が、建設的戦略安定関係の補強という今回の方針につながっている。


第一次トランプ政権で国家安全保障担当大統領補佐官を務めたジョン・ボルトン氏は長年ソ連・ロシアとの交渉に携わってきた立場から、「戦略的安定」という表現を好んで用いたのは実はソ連・ロシアだったと指摘する。彼らは今日まで戦略兵器で米国を凌駕できていない。そんな彼らの「米国に戦略兵器で優位に立ってほしくない、米国の行動を制限したい」という願望を込めた言葉が、「戦略的安定」だったとボルトン氏は語る。


中国も同様だろう。彼らは相手が自分より強ければ、決して挑戦的な表現は用いない。自分たちの真の狙いを悟らせず、油断させる。その間に時間が自分たちに味方するように手を打ち続ける。だからこそ日米共に、意味のよく分からない事柄に関して安易に合意してはならないというのがボルトン氏の警告だ。


中国は長い時間軸で戦略を構築する。彼らは「待つことの重要性」を知っており時間を最大の味方とする。


長期戦略の重要性を、米国、日本、欧州諸国などの民主主義国も頭では理解できても、現実の必要性の前では中々実行に移しにくい。目先の支持率を気にすれば尚更である。


日米分断


今回の米中首脳会談に例をとれば、我々からすると意味の定かでない9文字で表現されている米中関係は、「対等」なものである、と中国側によって強調された。選挙を前にしたトランプ氏は眼前の成果を望む余り、米中間の基本概念に関心を向けなかったのだろう。


他方、中国はこれこそ台湾問題への米国の介入を止めさせ得る、自国に有利に機能する手立てと考えているのではないか。トランプ政権が中間選挙で敗北して力を失えば、或いは今すぐではなくとも、米国が衰退の度を深めれば、9文字の縛りは将来的により有効に機能するとの計略ではないか。


長い時間軸に基づいて考える習氏と、眼前の損得に鋭敏なトランプ氏の違いは、習氏の歓迎式典で鮮明になった。習氏は日米分断に狙いを定めてこう語ったのだ。


「中米は第二次世界大戦で肩を並べてファシズムの侵略に立ち向かった」


これは必ずしも間違いではない。蒋介石の国民党も毛沢東の共産党も中国だったから。しかし、蒋と毛は敵対関係にあり、米国が共に戦ったのは共産党の毛ではない。だが歴史を知らないトランプ氏にはどうでもよいことだろう。氏はこう言ってしまった。「かつて我々は同盟国(allies)だった」と。習氏は日米分断に向けて1ミリ前進したと思ったことだろう。


その夜の晩餐会こそ噴飯物だった。最初に歓迎の辞を述べたトランプ氏は、突然、「ここでスクリプト(予定原稿)から外れて、どうしても言いたい」と、脱線した。予定原稿の中国礼賛などどうでもいい、自分が言いたいのはこれだと、建設中の大舞踏会場について延々と語り始めた。


1年後に完成予定の「大ボールルーム」は過去150年間、歴代大統領が欲したもので、最も美しい大舞踏会場になる。よかったら習氏夫妻を御案内しよう、などとしゃべりまくったトランプ氏に会場は笑いの渦に包まれた。米側の笑いの底には、米国との対等を求める中国など何するものかという軽侮の感情もあるのではないか。


一方の習氏はその後演台に立ち、正装の黒い人民服姿で冗談ひとつなしに、予定原稿を読んだ。


「80年以上前、中米は軍国主義日本の侵略と戦った。多くの中国人が米国人パイロットを命懸けで救った。中米関係は血と炎の絆だ」


歓迎式典での「ファシズム」から更に踏み込んでわが国を名指しした。習氏の悲願である台湾奪取のためには、日本こそ国際社会を乱す悪だと決めつけなければならない。それゆえ、米中関係を固める演説は厳かでなければならず、習氏はシナリオ通りに役割を演じた。他方トランプ氏は、そんな習氏の思惑をまるで気にもかけないかのように脱線した。そうした中、米側のファクトシートには「第二次大戦時、米中は同盟国だった」と書き込まれた。


地球儀を俯瞰する


習氏は長期戦略の第一歩を固めたと考えるだろう。わが国を軍国主義国と決めつけ、旧敵国条項を利用し、武力を行使してでも排除すべき存在として追い込んだつもりだろう。米国をして、「米中は同盟国だった」と記録させた。歴史改竄の完結に向けた長い戦いを前進させた気になっているのだ。


中間選挙が迫るトランプ氏、独裁政治で足下を固めた習氏。両氏の時間軸が大きく異なるのは当然だ。わが国はこの状況下での対応が米中の勢力争いを決定的に動かし得ると自覚すべきだ。米国に扶(たす)けられている現状から、米国を扶けるにはどうすべきかという発想に切り替え、安保、経済、外交政策を組み直す。その新戦略の中にのみ、わが国の未来があると認識しなければならない。


わが国一国の力は大きくないかもしれないが、その力を梃子に、より大きな力を生み出すのだ。安倍晋三総理のように地球儀を俯瞰すべきである。


日本と似た立場のウクライナは侵略に耐え、侵攻を受けて4年半後の今、対ロシア戦で優位に立つ。元ウクライナ大使の松田邦紀氏は9月25日、国家基本問題研究所で、ロシアが戦費負担に耐えきれず、今年、軍事費削減に乗り出したと驚くべき指摘をした。


こうした中、6月以降、トランプ氏が再びウクライナ戦争停戦への動きを模索、その中で中国の協力を得ようとしている。中国の力を借りることは中長期的には高くつく。台湾カードとして使われかねない。


そのトランプ氏ですら、9月18日に新たな対露制裁法案に署名し、EUも22日に対露制裁の延長を決めた。わが国は今、はっきりとウクライナを支援する経済安保政策を打ち出すべきだと松田氏は強調する。


対ウクライナ支援を実のあるものとし、国際社会を巻き込んで、中国が動くより前に、ロシアを停戦に追い込むべく日本国の意志を示すことだ。

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